「土用の丑は休みます」 書き入れ時に老舗ウナギ店が敢えて休む理由とは?
2025年7月19日と31日は「土用の丑の日」。
「土用の丑の日」とは土用の期間中の丑の日を指し、土用とは、立春、立夏、立秋、立冬それぞれの直前の約18日間のことを言う。
その中でも夏の土用の丑の日は鰻を食べる習慣があり、鰻専門店や飲食店、スーパーなどには鰻を求める人が殺到する。
しかし、そんな「書き入れ時」の土用の丑の日に休業する鰻専門店もある。
他の専門店では行列が出来たり、予約が殺到している日に敢えて休む「逆張り」の営業。
寛政年間に創業した東麻布の老舗鰻店『野田岩』が、土用の丑の日に休むのは有名だ。
他にも全国には土用の丑の日に休業する老舗が少なくない。
なぜ「書き入れ時」である土用の丑の日に休むのか。一番の理由は「提供する鰻の質を守りたい」という思い。
通常の何倍もの客が殺到する土用の丑の日は、厨房の忙しさも何倍にもなるということ。
美味しい鰻を焼くということは、職人技で繊細な神経を使う仕事だ。
仕入れも含めて通常と同じ鰻を提供出来ない可能性があるため、大切にしてきた味を守るために店を休むのだ。
老舗のほとんどが、注文を受けてから調理するなど、昔ながらの製法で鰻を提供している。
効率化やシステムとは無縁の、完全手作業による手間のかかる仕事だ。
それを一日中休みなく、しかも通常よりも多い数を捌かなければならなくなる。
その結果、クオリティの低いものを出してしまって、長年守ってきた味や暖簾を汚すことは出来ない。だから土用の丑の日には休むのだ。
鰻との向き合い方を考える機会に
イベントとして鰻を食べるのは終わりにしよう。
これは飲食業界で昨今注目されている「新しい働き方」にも合致している。
人手不足が深刻化する中で、多くの飲食店では「疲弊しない仕組み」を求める動きが広がっている。
無理にピークを捌いて疲弊するよりも、均質なサービスを続けることを選ぶ。その方がスタッフにとっても客にとってもメリットがある。
ランチタイムをやめたり、営業時間を短くしたりするのはその一例だ。
なぜ私たちは「土用の丑の日」に鰻を食べるのか。落ち着いて考えてみたら、そこにはイベント性以外の合理的な理由が見当たらない。
大晦日に蕎麦を啜るとか、節分に恵方巻きにかぶりつくとか、クリスマスにチキンを食べることと大差ない。
夏バテ予防に鰻を食べるというのであれば、別に土用の丑の日に限らなくても良いことだ。
そもそも冬が旬である鰻を夏に食べるようになったのは、江戸時代に夏場で売り上げが下がった鰻店が仕掛けたキャンペーンが
きっかけと言われている。その仕掛けに多くの鰻店や飲食店、スーパーなどが乗っかり、現代の私たちも踊らされているだけなのだ。
そう考えたら、無理して土用の丑の日に鰻を食べる必要もないのではないか。
土用の丑の日の夜、スーパーには多くの鰻が積まれている。売り切れのないように通常よりもたくさん仕入れられた鰻の蒲焼は、
売れ残ってしまったら廃棄される。恵方巻きやクリスマスケーキでも起こる廃棄問題は、重要な社会課題の一つだ。
もし土用の丑の日に皆が集中しなければ、無駄な鰻の廃棄は生まれないかもしれない。
鰻は絶滅期樹種に指定されている生き物だ。養殖技術が進んでいるとはいえ、鰻は天然、養殖問わずとも100%天然資源に頼っている。
鰻を食べること自体は食文化としてあって然るべきだが、絶滅する可能性が高いと指摘されている天然資源を大量消費している日本は、
鰻を守ることに一定以上の責任が問われている。
なぜ私たちは「土用の丑の日」に鰻を食べるのか。今一度よく考えて鰻と向き合って欲しい。無駄に無意味に鰻を食べるのではなく、
食べたい時に鰻の専門店で食べる。
いつまでも美味しい鰻を食べ続けるために、土用の丑の日を私たち一人ひとりが鰻について考える良い機会にして欲しい。
色々な意見がありますが、もみじはやはり鰻を今日は食べます。